コラム

「電子契約」と「紙の契約」の違いは?…経営者が必ず知っておきたい電子契約の〈法的効力〉【弁護士が解説】

公開日:2024年09月06日 更新日:2024年09月06日

近年、社会全体のデジタル化が進み、電子契約を導入する企業が増えています。「導入を検討しているが、電子契約の法的な有効性が気になる」という中小企業経営者向けに、紙での契約との違いやメリット・デメリット、導入する際の注意ポイントを、弁護士の山村暢彦氏が解説します。

電子契約には、
どこまで「法的効力」があるの?
まず、大前提として、口頭のみでも契約は有効に成立するという「契約方式自由の原則」があります。実際、LINEやメール、ショートメッセージなど、可読性のある文字で合意されていれば、裁判の証拠としても有効となりますが、毎度、裁判でその信憑性を争うような不安定さでは困るため、実務面においては、判子を押した紙の契約書を作るのが、一般的となっています。

では、紙の契約書に判子を押すのはなぜかというと、民事訴訟法の以下の条文で定められる、「2段の推定」という効果を得るために、判子を押した契約書を作成するのが通例となっているためです。


(文書の成立)
第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。

4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する


ここでいう「真正に成立」という表現は、その文書が作成者の意思にしたがって作成したものという意味です。つまり、冗談で書いたものや、強迫などにより、捻じ曲げられて作成したものではないことを証明しなければならない、という定めです。

しかし、毎度、「いや、こんな書面は本気ではなかった」と言い訳され、裁判しているわけにはいかないので、「署名または押印」がある際には、その書面内容通りの意思があり、書面を作成したものだと推定する、という規定が置かれることになったのです。

ちなみに海外では、契約時に「サイン証明」をするのが主流であり、法律上は、「サイン」や「署名」と「判子」は同じ扱いです。ただし、サイン証明の場合、筆跡鑑定で整合性を判断しなければならず、手間がかかります。それで、これまでの日本では、一般的に判子が用いられていました。

それでは、電子契約の「法的効力」はどうでしょうか? 現在は、電子署名法が整備され、以下の規定が置かれました。電子署名があれば、民事訴訟法228条4項と同様に、「真正に成立したもの」と推定する効果が受けられるため、これにより、紙の契約書と同様の推定を受けられるようになりました。


第二章 電磁的記録の真正な成立の推定

第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する


すなわち、電子署名のある電子契約については、法律の効果上も、判子の捺印された文書と同様の推定を受けられるようになり、法的効力に違いがなくなってきたため、普及してきたと考えられます。

電子契約を導入する
「メリット」と「デメリット」は?
電子契約のメリットとして、第一にあげられるのは「印紙代の節約」です。一定の契約類型には、契約金額に応じて、印紙を貼らなければならない、すなわち「印紙代」が発生するのですが、電子契約では、その印紙代が免除されるというメリットがあります。

また、紙の契約書の場合、郵送などの手間がありますが、電子契約の場合は、メールアドレスなどを利用して瞬時に契約をおこなうことができるため、郵送事務コストの省略というメリットもあげられます。

デメリットとなり得るのは、「技術的なエラー」です。電子契約自体は、民間会社がおこなっているサービスなので、たとえば、そのサービス運営会社が破綻してしまった場合、過去の電子契約の有効性などが、あとから判別できなくなる事態や、インターネットを介しておこなうサービスゆえに、「クラッキング」を受けた場合、情報流出の危険性があるといった懸念など、IT技術上のエラーや民間企業が管理しているという範疇で、エラーが生じる可能性も考えられます。

ただし、この点においては、何らかのバックアップなども予定されていると思われるため、憂慮しなくてもよいかもしれません。想定の範囲内のデメリットといえるでしょう。

電子契約を導入する際の注意点
前述にあげたデメリットと同様、電子契約は、民間企業が提供するサービスという前提があるので、信用ができ、サービスを継続していくことができる企業を、極力利用しておいたほうが安心です。

「契約書をいつまで残すか」という問題もありますが、特殊な法的規制があるものを除けば、基本的に法律は指定していません。一般的には、5年から10年の間で残しておけば、時効期間が経過するものが多く、問題ないといえるでしょう。ただし、非常に厳密に考えると、20年経過するまでは、民法上の不法行為による請求が成立することもあるので、可能であれば、契約時から20年間は保存しておくほうがベターです。

利便性やコストも大事ですが、契約時から20年間変わらず利用できるという観点で、電子契約サービス導入を検討するとよいかもしれません。

国を挙げて「電子契約」を推進している現状
電子契約の導入について、とくに、不動産取引や請負契約といった、従来からある典型的な契約類型においては、数年前まで、消極的な立場でした。しかしながら、「電子署名法」の制定や、デジタル庁の設立など、国家として、契約の電子化を推進する流れがあるのが現状です。

利便性の高さや印紙代の節約といったメリットも多く、より積極的に、電子契約を利用できる社会が整いつつある、といえます。

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著者:山村 暢彦(やまむら のぶひこ)
【弁護士法人山村法律事務所】代表弁護士

実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。

編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン
ⒸイツトナLIVES/シャープファイナンス

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