コラム

【本の話】主人公のモデルは医学書?『ねこの小児科医ローベルト』著・木地雅映子

公開日:2025年10月31日 更新日:2025年10月31日

絵本は子どもだけのものとは限りません。実在するモデルのあるという『ねこの小児科医ローベルト』は「お医者さん」を求める親御さんと子どもたち、求められる「お医者さん」であろうとする医療者たち。そんな彼らを応援したい、見守る全ての人のための絵本です。
作家の木地雅映子(きじ・かえこ)さん自身の、経験と取材に基づくリアルで不思議でワクワクする物語です。

クリニックの本棚に、親御さんたちのお手元に、お子さんを迎えたご家庭に贈る一冊に。届いてほしい「生きるチカラ」と願いが主題の本を紹介します。

小さな子どもの深夜の病変、駆け付けたのは小さくて立派なお医者さん。
子どもを育てたり、診療対象にしていたならきっと出会う事態。
言葉がうまく伝えられない小さな子どもの、急な病変に最悪の事態を考えてしまう親御さん。その焦りやうまく快方に向かわないもどかしさ。こんなとき医療に繋がらなければ、どんなこともあり得るのです。深夜の救急を呼ぶ保護者たちはいつも真剣です。そして、その病気に対応するお医者さんたちも。

隣で寝ている小さな弟が、急に吐きました。お姉さんのユキは大人たちを呼びに行きます。持ち直してもまた具合が悪くなる弟。だんだん焦り始める両親…… そこに「夜間救急専門小児科医 松田ローベルト」と書かれた電話帳の文字をユキは見つけます。
小さなバイクの音と共にやってきた先生は、
本当に小さくて、縦に伸びた耳があって?

robeltbooks■どう見ても猫なのに、二本足で立つ不思議な小児科医の松田ローベルト先生■

なぜローベルトは、お医者さんを続けるのか
夜が明けて、大人たちが猫の医師、ローベルト先生を忘れても、子どもたちはちゃんと覚えています。いつのまにか、家の飼い猫になっている猫のローベルト。夢か本当だったのか”あわい”のお話になりそうな、ユキも夢だったのかと思い始めるころ、それでもお別れの日はやってきます。

作者の木地雅映子さんは「ローベルトは正確には、松田道雄先生による家庭医学の名著『育児の百科』の化身」だと答えています。毎晩、全国で何百人もの保護者たちが一心にページをめくり、苦しむ子どもに手を差し伸べてくれる「松田ローベルト」を求めている。
だから、彼は病気の子どものところへと向かうのです。


治療の合間に松田先生は、両親とユキに話します。ユキの家は衛生的で、きれいな水の出る安全な場所だからこれは薬がなくても治る病気になります。けどそれがない国の子どもたちは、命を落とすことだってある。ほんとうに怖くない病気なんてない。
悲しい気持ちになってしまったユキたちに、それでも「世の中の悲しいところばかりに心を奪われてはいけない」と言い、先生自身は「自分のしなくちゃいけない仕事をやって生きていけるっていうのは本当に幸せなこと」だ、と、小柄な猫の体に白衣をきりっと着た背中を見せて去っていくのでした。

作品内では具体的な幼児の吐き下しへの対応や、考え方を解説してあり、親御さんにも学びになると評判の本書は、晩年まで改定を繰り返しアップデートを加え続けた松田道雄先生の著書はもちろん、医療監修にあたられた金子光延先生の手でさらにブラッシュアップされたものです。
金子先生は絵本出版の3年後、国境なき医師団(MSF)に採用され翌年タンザニアの難民キャンプという、まさに作品中で語られたような現場で活動されました。体験記はMSFサイトで読めます。


作品に出てくるローベルト先生は、松田先生であり、金子先生や、あとに続くたくさんの医師たちの分身であり、深夜の電話はあなたの、それともたくさんの屋根の下にいる誰かの、愛しい人を心配する温かい気持ちです。
この作品も、松田道雄先生の『育児の百科』のように、猫のローベルトのように。おうちで子どもたちを見守る絵本になって欲しいと、たくさんの願いがこもった良書です。

書誌情報
『ねこの小児科医ローベルト』
木地雅映子 作
五十嵐大介 絵
医療監修:金子光延(医療法人社団晴琉会かねこクリニック)※出版時
定価(本体価格) 1,500円+税
サイズ(判型) 22cm×19cm/ページ数 72ページ
ISBN 978-4-03-313770-4
発売日 2019年2月

提供:ⒸイツトナLIVES/シャープファイナンス

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