コラム

【ビジネスの幅が広がる会計学】「減価償却」の基礎知識を税理士が徹底解説!

公開日:2024年11月01日 更新日:2024年11月01日

経理担当者であれば、一度は耳にしたことがある「減価償却」。しかし、その内容をしっかりと理解している人は、少ないのではないでしょうか? 今回は、ちょっとややこしい「減価償却」の仕組みについて、税理士法人メディア・エス社員税理士の田中康雄氏が、詳しく解説していきます。

減価償却とは?

会社が業務のために1年以上使用する資産は、「固定資産」に分類されます。また、将来の収益獲得のために、会社の資本を投下して取得される固定資産は、その支出の効果が長期間に及ぶため、費用の前払いとしての性格も持ち合わせています。

こうした点に着目すると、毎期の利益を正しく計算するには、固定資産を取得した事業年度で全額費用計上するのではなく、使用期間にわたって費用配分していくことがむしろ適正な会計処理だといえます。
そして、使用期間にわたって費用化した固定資産の部分を帳簿価額から控除していくことを、減価償却といいます。

減価償却を行うメリットは?

減価償却のメリットは、会計上の側面から考えると、適正な期間損益計算にあり、これにより、各期の利益の平準化を図ることができるという点にあります。

また、税金計算の面における減価償却費のメリットとしては、減価償却費=費用(損金)として考えられるため、法人税の負担を軽減する効果があります。その効果は、会計上において、毎期減価償却費が計上されていくかぎり、翌事業年度以降も続いていきます。
このように、固定資産は会社の財産としての資産価値を有しながらも、収益獲得に寄与するものとして、減価償却という形で費用計上が認められるという点で、節税にも貢献します。

減価償却の対象となる資産

減価償却の対象となる資産には、事業のために使用する建物や建物附属設備、構築物、機械および装置、車両および運搬具、工具、器具および備品などのほか、ソフトウエアなどの無形固定資産も含まれます。

資産の価値や効用が、その使用または時の経過によって減耗するものを減価償却資産といいます。つまり、土地などのように、時の経過によりその価値が減少しないものや、稼働を休止しているものなど、事業の用に供していないものは、減価償却資産には該当しません。

また、法人税においては、使用できる期間が1年未満のものや、取得価額が10万円未満のものも減価償却資産には含まれません。

つまり、その資産の取得価額が10万円以上であっても、使用できる見込みが1年未満であるものや、逆に使用期間を1年以上と見込んでいても、その取得価額が10万円未満であれば、減価償却資産には該当しません。その場合、取得した事業年度において、一括で費用処理します。

減価償却と法定耐用年数の関係
減価償却資産は、その取得価額を耐用年数にわたって費用化していきます。

耐用年数とは、減価償却資産の使用可能期間のことを指します。その使用可能期間は、本来その会社の業種や規模、使途などによって異なるのが一般的です。

しかし、税法では課税の公平性が重視されているため、税金を計算するうえでは会社の恣意性が排除されなければなりません。そこで法人税では、会社が減価償却を行う際、その耐用年数を減価償却資産の種類ごとに法定化しています。これを「法定耐用年数」といいます。

仮に、会社独自の意思決定によって、この法定耐用年数を短縮して減価償却費を計上した場合、その法定耐用年数を超えて償却された部分は、原則として、税務上の費用(損金)としては認められません。

減価償却の計算方法
減価償却の計算方法として代表的なものは、「定額法」と「定率法」の2つになります。

定額法とは、減価償却資産の取得価額に、償却率を乗じて計算する方法になります。償却率は、減価償却費が毎期均等になるように耐用年数に応じて定められます。

定率法とは、減価償却費が毎期一定の割合で逓減する(次第に減っていく)ように、減価償却資産の取得価額に、定められた耐用年数に応じた償却率を乗じて計算する方法になります。

[図表]定額法と定率法

法人税においては、耐用年数が法定化されているように、償却方法についても、建物や建物附属設備、構築物については定額法、それ以外の有形減価償却資産については定率法を適用することが、原則として定められています。

減価償却の注意点
減価償却費は、会計上の費用としても税務上の費用(損金)としても認められていますが、法人税では、法定耐用年数を使って算定した減価償却費を上限として、計上する金額は任意となっています。

つまり、法人に限っては、減価償却は強制適用ではなく、その事業年度の利益に応じて申告します。極端なケースでは、償却費をゼロとして申告をしても、税務上は問題ありません。

ただし、会計上のルールとしては、こうした任意償却は認められていません。例えば、金融機関などに決算書を提出している会社などは、会計上の任意償却によって利益操作の疑いを持たれる可能性があるため、注意が必要です。

法定耐用年数の適用は「課税の公平性」の担保のために必須
減価償却は、固定資産の取得価額をその使用可能期間に応じて、各期に費用按分する手続きです。そして、減価償却費の計算の基礎となる耐用年数や償却方法の選択について、これを会社の裁量に任せてしまうと、税務が求める課税の公平性を確保することはできません。

本来、会計上の視点からすれば、耐用年数や償却方法は、各会社の実態にあわせて、その会社の意思決定に任せるべきなのかもしれませんが、多くの会社では、課税の公平性という税務上の制約に従い、会計上においても、法人税で法定化された耐用年数や償却方法を使って減価償却費を計上しているというのが、実務的な処理方法になっています。


著者:田中 康雄
税理士法人メディア・エス/税理士

編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン
ⒸイツトナLIVES/シャープファイナンス

前の記事 「約款」と「契約書」の違いとは?…知っておくと役立つ「約款」の基礎知識【弁護士が解説】 一覧へ