コラム
2025/07/25
2027年から変わる企業会計の常識 【新リース会計基準の全貌と対応を税理士が解説】
公開日:2025年07月25日 更新日:2025年07月25日
※画像はイメージです/PIXTA
2024年9月、企業会計基準委員会(ASBJ)から「リースに関する会計基準」(新リース会計基準)が公表されました。この新基準は2027年4月1日以降開始する事業年度から強制適用され、国内企業の財務諸表に大きな変化をもたらします。「大企業向け」の改正のように見えますが、中小企業や個人経営でも、リース契約による機器導入や不動産の賃借は日常的に行われております。将来的な制度改正や会計処理の透明化を見据え、理解を深めておくことがリスク回避につながります。本稿では、新リース会計基準の背景と変更点を整理し、今から取り組むべき備えについて、日本クレアス税理士法人 執行役員・税理士の中川 義敬氏が解説します。
■国際標準化を目指す会計基準改革
新リース会計基準は、国際財務報告基準(IFRS)との整合性を図ることを主な目的としています。日本のリース会計は1993年に制定され、2007年に改正されましたが、2016年にIFRSが「第16号」として大きく見直されたことで、再び両基準間に乖離が生じました。
この乖離の本質は、IFRS第16号が「使用権モデル」を採用し、全てのリースを原則オンバランス化(貸借対照表に資産・負債として計上すること)したのに対し、日本基準では依然としてファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区別し、後者をオフバランス(貸借対照表には計上せず、損益計算書で費用として処理すること)としていた点です。
オンバランスとオフバランスについて簡単に説明しますと、オンバランスとは企業の貸借対照表に資産や負債として記載されることを意味します。例えばリース資産をオンバランスすると、「使用権資産(リース資産)」として資産側に計上すると同時に、「リース負債」として負債側にも計上します。一方、オフバランスとは貸借対照表には計上せず、利用料や賃借料として毎期の損益計算書に費用としてのみ計上する方法です。オンバランスにするとその企業が実際に抱える債務や使用している資産の実態がより明確になりますが、負債比率などの財務指標に影響します。
結果として、同じ事業内容でも採用する会計基準によって財務状態の見え方が大きく異なり、特に航空機リースや大規模不動産賃借を行う企業では、国際比較が困難な状況となっていました。このような背景から、2019年に企業会計基準委員会(ASBJ)が検討を開始し、財務諸表の国際的な比較可能性を高めるために、日本でも国際標準に準拠した新基準が策定されることとなったのです。
■何が変わるのか?主要な変更点
1. リースの定義と識別の変更
新基準では、リースを「特定の資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約」と定義しています。これにより、契約書に「リース」という文言がなくても、実質的にリースと判断される取引が増加します。例えば、オフィスの賃貸借契約や一部の業務委託契約なども、新基準ではリースに該当する可能性があります。
2. オンバランス化の拡大
現行基準では、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に区分し、前者のみを資産・負債として計上(オンバランス)していました。新基準では、この区分が撤廃され、原則としてすべてのリースをオンバランス処理することになります。ただし、300万円以下の少額リースや短期リースには例外措置が設けられ、従来通りの費用処理が認められています。
3. 財務諸表への影響
オンバランス化によって、貸借対照表の資産・負債がともに増加します。また、損益計算書では「賃借料」として一括計上されていた費用が、「減価償却費」と「支払利息」に分かれて計上されるようになります。この結果、ROA(総資産利益率)や自己資本比率などの財務指標に影響が生じる可能性があります。
■対象企業と適用時期
新リース会計基準は、上場企業や会計監査人を設置する会社が対象となります。適用時期は2027年4月1日以降開始する事業年度からですが、2025年4月からの早期適用も認められています。中小企業については「中小企業の会計に関する指針」に従った対応となります。
■今から始めるべき準備
1. 契約の洗い出しと分析
社内に存在するリース契約を網羅的に把握することが第一歩です。その際、契約名に「リース」が含まれていなくても、実質的にリースに該当する取引も洗い出す必要があります。不動産賃貸借契約やレンタル契約なども精査しましょう。
2. 影響度の把握と経営層への報告
新基準適用によって財務諸表や財務指標がどの程度変動するか、試算を行いましょう。その結果を経営層に報告し、対応策を検討する材料とします。
3. システム対応と業務プロセスの見直し
リース契約の管理や会計処理を効率的に行うためには、会計システムの更新や業務プロセスの見直しが不可欠です。特にクラウド型の会計システムは、制度改正に合わせて自動更新されるため、今後の対応がスムーズになります。
4. 税理士・会計事務所との相談
中小企業やクリニックなどの医療機関では、一般的に税理士や会計事務所に会計業務を依頼していることが多いでしょう。新基準の対象範囲は主に上場企業や大企業ですが、会計の透明性向上の観点から、今後中小企業にも何らかの影響が波及する可能性があります。早い段階から顧問税理士や会計事務所と相談し、自社への影響や対応の必要性について専門的なアドバイスを受けることをお勧めします。
■おわりに
新リース会計基準は主に大企業や上場企業に対して適用されますが、中小企業やクリニックなどの医療機関においても、機器のリースや不動産賃貸借契約などを多数抱えている場合には、財務状況の把握や経営判断のために新基準の考え方を理解しておくことが有益です。
なお「中小企業の会計に関する指針」においても今後の改定で国際的な動向が反映される可能性があります。
著者:日本クレアス税理士法人
執行役員/中川 義敬 税理士(近畿税理士会所属)
【経歴】2007年税理士登録、2009年に日本クレアス税理士法人入社。現在に至るまで、東証一部上場企業から中小企業・医院の税務相談、税務申告対応、医院開業コンサルティング、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等に従事。2019年7月大阪本部 本部長に就任。現在に至る。
提供:ⒸイツトナLIVES/シャープファイナンス
注目の
コラム記事
-
はかどる / スラスラ
2025/07/25
2027年から変わる企業会計の常識 【新リース会計基準の全貌と対応を税理士が解説】
※画像はイメージです/PIXTA 2024年9月、企業会計基準委員会(ASBJ)から「リースに関する...
-
楽しむ / ワクワク
2025/07/18
【自宅ビリヤニ】『「ビリヤニ大澤」のフライパンビリヤニ』発売記念、フライパンビリヤニのレシピを限定公開!
ビリヤニを知っていますか。旅先のごちそう、香り高くどこか特別な「もてなしの味」。 昨年はコンビニに登...
-
はかどる / スラスラ
2025/07/11
出世には興味ありません…クビにさえならなければいい?「静かな退職」を選ぶ若手社員の“懐事情”【お金のプロが解説】
※画像はイメージです/PIXTA 高度経済成長期~バブル期の日本では、プライベートを犠牲にしても仕事...
[ 記事カテゴリ ]
