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デキるビジネスパーソンの基礎知識…「契約権限」がない人が契約書に押印→契約無効になる?【弁護士が解説】

公開日:2024年12月20日 更新日:2024年12月20日

他社と業務を行う場合や商品の購入、海外旅行にいたるまで、私たちが普段からなにげなくかわしている「契約」。言われるがままとりあえずハンコを押している……という人も多いのではないでしょうか。近年は電子化が進み、契約行為もより短時間で簡単に済むようになりました。
しかし、この契約行為に「契約権限」があるのをご存じでしょうか? 仕組みをしっかり押さえておかないと、思わぬトラブルに発展しかねません。今回は、山村法律事務所の代表弁護士・山村暢彦氏が、「契約権限」の仕組みについて事例を交えて解説します。

会社で「契約権限」を与えられているのは、
原則「代表取締役」のみ

たとえば、A社がB社の新入社員と契約を交わし、その後トラブルに発展。B社の代表者が「私ではない者が契約書に押印したので無効だ」と契約解除を求めてきた場合、その契約の「有効性」はどのように判断されるのでしょうか。

まず、会社を代表して契約できる権限は、原則「代表取締役」のみに与えられています。
上記のように、勝手に新入社員が契約を乱発して、会社が巻き込まれたら大変な事態になるため、組織によってはさまざまな呼び方があるかと思いますが、基本的に「契約権限」を持つのは、文字どおり会社の”代表”である代表取締役だけです。契約権限を持っている立場にあるかどうかは、法務局の「登記簿」にて確認できるようになっています。

なお、代表取締役と同じ意味で「社長」という言葉がよく使われていますが、社長とは単なる役職を指す言葉で、法律上あまり意味を持つものではありません。そのため、「社長」という役職は必ずしも代表取締役とイコールではなく、実際には「会長」や「オーナー」などと呼ばれている人物が代表取締役を務めていて、社長は”サラリーマン社長”、すなわち従業員の立場にしかない、という企業も多くあります。

さて、そうはいっても、会社のすべての契約を代表取締役が行うとなると、業務が回らなくなってしまいます。そのため、特定の契約については、各従業員が行えるよう、会社から従業員へ契約権限を与えているのが一般的です。

具体的にいうと、「500万円以下のリフォーム工事」の場合は営業部長なら契約できる、「20万円以下の簡易な修繕工事」なら従業員誰でも契約できるなど、内容や金額に応じて、権限を限定しているケースが多いです。

家電量販店に出かけた際、値引き交渉の場面で「私には5,000円までしか値引きできないので、1万円値引きできるか支店長に確認してきます!」という場面に遭遇したことがある人もいるかもしれませんが、あれは単なるパフォーマンスではなく、一般販売員と支店長とで契約権限が異なるため、生じてくる確認事項なのです。

契約権限がない社員が締結した場合、
契約は有効?

さて、そうすると、社員それぞれにどんな契約権限があるのか、どうやって確認すればよいのでしょうか。

法務局の「登記簿」に登記されているのは、代表取締役をはじめとする会社役員のみです。そのため、営業部長や支店長等の役職者であっても、公的な書類から契約権限を確認することはできません。ある契約が当方にとって非常に重要度が高い場合、契約先となる相手方の契約権限を明らかにするには、「委任状」という書類があれば確認できます。

ただし、銀行取引などはさておき、一般消費者と企業との取引といった場合には、わざわざ委任状を準備するようなことはしていないのが通常だと思います。そのため民法では、以下のような条文が設けられています。


(代理権授与の表示による表見代理等)
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。


法律の条文なので読みづらいですが、要は、「外部の者から見て契約権限の有無がわからない状態で契約し、あとからその従業員に契約権限がなかったなんてトラブルが起きると、安心して取引ができないので、その従業員が会社を代理できるような外観がある場合には、実際の権限の有無にかかわらず、会社を代理したことにする」といった意味合いです。

「会社を代理できるような外観」というのは、具体的にいうと「〇〇社の社員とわかるような制服や社用車、名刺」であったり、「契約ひな形」、「会社の印鑑」などを指したりします。これらを身に着けていれば、「その人物は〇〇社の従業員であり、その契約内容どおりの契約権限をもっている」と信じられても仕方ない状況といえるでしょう。

したがって、このような場合には、仮に内部の契約権限に違反していたとしても、会社との取引が正常であったように扱う、というような条文です。

冒頭の事例でいいますと、B社の新入社員が本当は20万円までの工事しか受注してはいけないのに、「これは絶対受注すべきだ」と勝手に判断して、契約権限のない「300万円の工事」の契約を勝手に結んだとしても、B社を代理できるような外観が揃っていれば、取引相手との関係によっては契約が有効となるということです。その新入社員はのちほどしっかりB社内部で怒られる、さらには責任を取らされる、ということになります。

昨今増えている「電子契約」の場合はどうか?
さて、ここまで読んで気づいた人もいるかと思いますが、先ほど説明した民法109条があるため、契約権限の有無で、外部顧客と会社が揉めるケースは、実情としてはそれほど多くありません。契約を交わす書類には、基本的に会社側は、「会社印鑑+代表取締役名義」があるためです。

昨今増えている電子契約の場合はどうかといいますと、紙の場合とあまり変わりません。「代表取締役の名義」+「代表取締役の電子署名」が書かれた電子書類によって、契約締結していることがほとんどでしょう。電子契約だからといって、契約名義が、営業部長や支店長であったり、新入社員自身の名前が記入されていたりするケースはほぼないと思います。

そのため、よっぽど杜撰な契約書や不完全な契約形態は別として、紙であっても電子書類であっても、きちんとした契約書の取り交わしがある場合には、「代表取締役名義+会社印鑑or電子署名」があるため、この点に注意しておけば、それほどトラブルにならないのではないかと思います。

お金を払うのは、契約手続きをすべて終えてから
反対に、このような正式な段取りが踏まれていない契約において、言われるがままよく理解せずにお金を払ってしまうのは絶対にやめましょう。悪徳社員が騙して契約を結ぼうとしているようなケースもあり得るので、「お金を払うのはきっちりとした契約手続きを行ってから」と覚えておきましょう。


著者:山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所/代表弁護士

編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン
ⒸイツトナLIVES/シャープファイナンス

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