コラム
2025/12/05
ソフトウェアは「資産」か「経費」か?…クラウド時代の会計・税務処理の基本【税理士が解説】
公開日:2025年12月05日 更新日:2025年12月05日

※画像はイメージです/PIXTA
クラウド型サービスの拡大により、企業が導入する業務ソフトも従来の「パッケージソフト」だけでなく「ライセンスソフト(クラウド利用型)」が普及し始めています。こうしたなか、「この費用は資産計上? それとも経費処理?」といった、実務上の悩みも増えているようです。
税理士法人グロースリンクの野田智成税理士が、クラウドソフトを導入した場合の税務処理について、実務で混同されやすい論点を中心に解説します。
■ソフトウェアの会計処理のポイント
クラウドサービスやサブスクリプション型ソフトウェアが急速に普及し、企業のIT投資の形は大きく変化しています。
従来の買い切り型(オンプレミス)では、購入したソフトウェアを資産として計上するのが一般的でした。しかし、クラウド利用料や月額課金型サービスが主流となった現在では、処理区分を迷う場面も増えています。
そこで、ソフトウェア導入時の「資産計上」と「経費処理」の違いを整理し、それぞれの会計処理についてみていきましょう。
資産性を判断する基本視点
ソフトウェアの処理区分を分ける鍵は「資産性」にあります。
資産性があるとは、企業がそのソフトウェアを長期的に利用し、将来の経済的価値を得られる状態にあることを指します。たとえば、買い切り型の業務ソフトや自社向けに開発されたシステムなどは、複数年度にわたり使用されることが多く、無形固定資産として計上し、原則5年で減価償却します。
一方、クラウド型やサブスクリプション型のように契約期間が限定され、利用権が一時的に与えられるにすぎないものは資産性がないと判断され、支払時に費用処理(期間費用)とするのが原則です。
初期設定・データ移行・操作説明費用の扱い
ソフトウェア導入時に発生する「初期設定」「データ移行」「操作説明」などの費用は、一般的に経費処理とされることが多い項目です。これらはソフトを利用可能にするための準備的支出であり、機能を新たに作り出すものではないためです。固定資産の取得価額に含める費用とは、通常、その資産を使用するために直接必要となる支出を指し、機能開発や改造など資産の形成につながるものが該当します。
一方、販売後の教育費や少額の付随費のように、資産の価値を高めるというよりも利用準備や教育的な性格を持つ支出については、取得価額に含めず費用処理とすることが多いとされています。この考え方に照らすと、初期設定や操作説明などの導入費用は、資産計上ではなく経費処理とするのが実務上の一般的な取扱いです。
■混同されやすい「カスタマイズ費用」との違い
これに対して、ソフトウェアの機能や構造を改変する「カスタマイズ費用」は性質が異なります。
たとえば、自社業務に合わせて帳票レイアウト機能を追加したり、他システムとの連携モジュールを新たに開発したりするような支出は、資産の機能拡張に該当する支出です。このような費用は、無形固定資産として資産計上し、原則5年で償却するのが妥当でしょう。
クラウド型システムの場合でも、提供事業者の基盤上に自社特有の機能を組み込むなど、成果物が明確に区分できる場合には資産計上を検討します。
ただし、単なる画面設定・レイアウト変更・ユーザー権限設定など、利用環境を整えるにとどまる作業はサービス利用の一環とされ、経費処理が一般的です。
■費用か、経費か…判断は慎重に
ソフトウェアの会計処理は、契約形態ではなく支出の実態に基づく資産性の有無で判断することが重要です。
- 利用準備や教育的支出 → 経費処理
- 機能の開発・改造 → 資産計上
- クラウド利用 → 原則経費処理
- カスタマイズを伴うクラウド開発 → 内容次第で資産計上を検討
- 補助金 → 資産計上なら圧縮処理による税務調整が可能
クラウド化が進むいまだからこそ、「使うための費用」なのか「継続保有する資産」なのかを正しく整理し、会計処理と税務処理の整合を保つことが求められています。
〈著者情報〉
野田智成 税理士法人グロースリンク 税理士(編集:幻冬舎ゴールドオンライン)
提供:ⒸイツトナLIVES/シャープファイナンス
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